安全安心な食べ物づくりと専用品種による多収穫飼料米の推進(株)秋川牧園の事例
平成28年4月12日
発表者紹介
安心安全な食べ物づくりを目指し、1972年に山口市で創業。鶏卵鶏肉を主軸に、牛乳、牛豚肉、無農薬の野菜等、広く農業から加工販売までを一貫とする6次産業化について、草分け的な役割を担う。また、地域農家と連携して、専用品種による飼料用米の多収穫栽培に早くから取組み、その全国モデルの役割を果たしつつある。
発表内容
「安心安全な食べ物づくりと専用品種による多収穫飼料用米の推進」
株式会社秋川牧園 代表取締役会長 秋川 實 氏
皆さん、こんにちは。秋牧の秋川でございます。今日お話をさせていただく機会をいただきまして、ありがとうございます。
短い時間になりますので、今日は主に、先ほど飼料米のもみ栽培、もみ保管の大先輩である鈴木様のほうから説明がございましたけれども、私どもも飼料米に取り組んでおりますので、そのことを中心にお話をしていきたいと思います。
これが私どもの本社です。ここに本社と食品工場関係、洗卵工場等々が集中しています。大体、今パートの方を含めて400名ぐらいで安心安全な食べ物づくりをしたいということで、約45年前にゼロからスタートしました。
これがその概要です。(スライドNO2参照)特徴は、食べ物は全部、農業のことは全部やっている。牛乳から豚肉ですけれども、メーンのところは鶏を基軸に経営してきた。今その中で、安心安全な鶏肉づくりが中心になっております。
いわゆる開放鶏舎で(スライドNO3参照)、それで平飼いにして長期飼育をします。品種は、いろいろ理由があって、おいしい肉をつくるということと、一番出発点のときからこだわりました。私も長年、養鶏をやっております。かつて1960年代、50年代は日本中が病気の巣のようなことだったのですね。どういう抗生物質をやっていくかというのが、養鶏家の腕の見せどころだった。大変無謀かと思いましたけれども、一切、抗生物質、抗菌剤を使わないで鶏を飼い切るということを、世界でやったところはなかったと思います。ゼロからスタートしたというところです。
これが全体像で(スライドNO4参照)、ちょっと見えにくいと思いますが、真ん中に井戸があって、鶏から、豚から、飼料米づくりから、全部やっているというところで、約400名の社員と、100名の生産者集団です。健康で安心安全な食べ物づくりの集団というところが特徴かと思います。
もう1つ特徴は、任意ですけれども、全部の生産者と、パートの方まで含めて株主になっています。これは、農業は人を管理して、管理される関係ではなかなか成功例がない。しかし、家族経営というのは一番いいのですけれども、それはやっぱり規模に限界がある。国際化の問題もなかなかできない。ということで、どうしても集団化していかなくてはいけない。必ず共同すると成績が落ちるというのも世界のならわしです。薬を使わないとか、残留農薬も大変だったのですけれども、農業を集団組織でどうやり切るかということですね。単にうるわしい共同経営では大体失敗します。
そういうことで、全員が経営参加しようということで、パートの方まで集まって、会社の経営状況、決算状況は詳しく全員の方に知らせます。成績がいいときはいいんですけど、成績が悪かったときもきちんと伝えるということを大事にしてまいりました。
ボーナスという制度はありません。利益の分配です。資本に対する分配、労働に対する分配ということで、労働の分配がボーナスであるということで、事業計画で幾らの利益が出たら、ボーナスは幾らと。その時期を、8月に仮払い、12月に仮払い、期末で清算ということを貫いてきました。
写真はたくさん出せませんが、やはり最終商品まで責任を持つというふうにしないと、なかなか一次産業のところは大変です。したがって、加工から販売までやり切って、そこの利益を厳しい生産の現場に配分して、トータルで安心安全をやっていくということで、冷凍食品の工場だけで110名ぐらい働いております。(スライドNO5参照)
これは(スライドNO6参照)宅配もしましょうということで、とりあえず山口県と大阪方面で、ネットを使って全国宅配というのもしております。
これから飼料米の本番になります。ご案内のように、お米が余るという状況はどうしようもないところに来ていると思います。このままでは農地が荒れていきます。国も重要なご決断をなされたというふうに理解をしています。やっぱり日本の農地や国土を荒らしてはならない。我々は千何百トン、皆様と一緒に、飼料というのはほとんど海外に依存しております。お米が800万トン余って困ってという状況がついているわけです。お米の栄養成分はほぼトウモロコシと同じぐらいです。脂肪酸組成はオレイン酸がむしろ飼料米のほうが多くて、特に鶏肉では大変おいしくなります。ということで、この挑戦が始まるわけです。これが約2009年からです。
この取り組みの中で、採卵鶏は大したことはありません。(スライドNO8参照)11万羽ぐらいです。若鶏が220万羽、体重が大きいですから、300万羽相当ぐらいになるかと思います。飼料米については、現在は2,100トンぐらい、年間、使っています。これは主に九州の皆さんに生協さんのルートで集めていただいたものを使うわけです。山口県でも、大変いい堆肥ができますから、それを完全に堆肥化して飼料米に使っていけば、飼料米は多収穫ができて、私どものコストダウンにもなります。もみで1トンとりましょうということを頑張って、その成績を出しておる生産者も随分出てきています。
1トンとろうとすると、窒素の必要量が反当たり、普通のお米で7〜8キロです。新しくやっているところだと20キロ。普通でも15キロ欲しいわけです。それを化学肥料でやりますと、それはコストになります。そこで、私どもが堆肥化した私どもの飼料を全部、無償で生産農家に届けるという仕組みを、2009年から始めました。これは山口県のプログラムです。
そして、お互いにまずコストを落とそうと。国の税金は貴重なものですから、できるだけ税金ご負担なく生産性を上げていこうと、まず生産者がたくさんとって、目を輝かす状況をつくろう。かつては、食料が足りないときには、たくさんとっていた人は村であがめられたんですが、今はお米をたくさんつくってはいけないということで、これがやはり地域の意欲の減退になっている。今度はたくさんとる人をたたえていこうという形にしまして、県等々のご協力、農業技術センターのご協力もいただいて、既に2009年からでしょうか、多収穫のコンテストを山口県でやり、また私どもの、先ほど別途会場で生産者の写真をお配りしていると思いますけれども、とにかく倒れない稲をつくる。倒れなければ多収穫できるんですね。そのためにはインディカ米の遺伝子を使っていくということで、いろいろと国や試験場等のご協力をいただいて進めているということです。山口県のこの取り組みについて、きょうは主にお話をしてまいろうと思います。
一番上は2009年です。(スライドNO9参照)これは、実は山口のJAさんの集会所でこの会議を開いて、取り組みを始めました。左側に看板が立っているのは、餌も国産ということで、消費者の方もたくさんお集まりいただいて、年々、輪が広がってまいりました。
やはり堆肥をつくるわけですから、ほとんど化学肥料は要りません。硫安をちょっとやるか、やらないか。できれば一切、硫安を使わないでやり切れば、肥料代はゼロにできる。籾摺りというのがありますと、なかなかコンタミの問題になります。ですから、先ほど鈴木養鶏さんが飼料米のほうの籾を食べさること、それからサイロ保管も先駆者でいらっしゃるわけなのですけれども、私どもは初めから籾で食べさせる。籾摺り自身も節約しようということです。
鶏はもともと米が好きでした。私どもも中学校のころから鶏を飼い始めたころは、必ず農家で唐箕にかけまして、そしてもうほとんど籾になっているものを鶏に食わしても、鶏は喜んで食ってくれます。この鶏が米に順化している遺伝子を持っているということは、非常に貴重な存在で、もみについて十分自信がありましたが、もうこれで9年やりますけれども、むしろ成績がよくなるんですね。鶏は、ご承知のように、非常に胃が強いですから、むしろ籾があることによって胃が刺激されるんじゃないかというように思います。
まず、モミロマンという品種から始まりました。これも絶対に倒れないということですばらしいのですけれども、残念ながら西日本の場合にはやはり秋の登熟率が少し悪くなるということで、今この北陸193というのがメーンになり、県からもご指定を受けて、種の圃場になって、全国の方にもそれをお配りしておるところです。またいろいろと品種改良の課題は後でお話をさせていただきます。(スライドNO10参照)
あれは(スライドNO11参照)肥料を積んでいるのです。鶏ふんが発酵したものについて、それを全部、圃場に持っていって、配るのは生産農家の方に配っていただきましょうという形で、もうこれが7〜8年、続いております。肥料の散布が大変と。これが1つのネックですね。それについて県からも幸いに助成をいただきまして、右にあるような散布車を半額助成をいただきまして、これについてはきちっと使用量の管理をしている。やっぱり堆肥をまきやすくするということが非常に大事です。
1年に最低2遍、(スライドNO12参照)いわゆる巡回共励会を行います。こういうことは久しく農業の中でやっていなかったのですね。下に集まっていただいているように、生産農家の方が全員、集まります。県の方、また農政事務所の方とかも年々お集まりいただいて、この巡回を1日がかりでやります。なかなか今、自分のつくった圃場をちゃんと見てもらう機会が少なくなっているのです。これは、同じつくり方をして、同じ種で収量が倍の方が出てくる。これは物すごい闘争心をわき立たせるわけですね。そして、今度は自分が一番になってやろうというようなことで、いい意味で切磋琢磨しております。この構造は、久しく農業の中になかったように思います。こういう形で県のほうからも表彰いただく。また、今度はいよいよ日本全体でもコンテスト制度がスタートするようでありますので、多くの方がエントリーされていくといいなと思います。
これは(スライドNO13参照)種の会です。
これは(スライドNO14参照)現状の課題とか、そういうことについて、後で少し時間が残ったら詳しく話そうと思いますが、課題がないわけではありません。鶏ふん堆肥についての悪い、間違った誤解があります。非常に肥料が遅効きであるとか、そのためによくないとか、いろいろそういうことがあります。余りにも早く肥料をまくと、肥料が流出するから肥料がロスになる。畜産農家でいったら、少々ロスはいいのですね。いい形で使ってもらっていいということで、発酵させたものをできるだけ早く圃場にまくということをお勧めしています。ほとんどの方がもう化学肥料は要らなくなりました。カリとリンは余るぐらいなのですね。問題は窒素の調整だけです。後でお話が出ると思いますが、課題として品種の問題があるということを後ほどお話しします。
それで、まだ課題ですが、もっと飼料米専用品種として登熟時期が早い品種ができないか。それから、少し稲が緑色になりますので、コブノメイガやウンカが少しつきやすいという性質があります。これは、我々の仕方ではどうにもなりませんので、国関係のところで総動員していただいて、そこを克服していただければ、少なくとも籾で1トンどりというのは普通にできるようになると思います。
もう1つ、私どもが非常にありがたいのは、秋川牧園では牛も豚も鶏も全部、遺伝子組みかえしない餌を使っています。これは約30年前にアメリカに渡りまして、ポストハーベスト無農薬のトウモロコシを持って帰るということをアメリカ人に説得して、分別輸入する形をとってきました。当初はプレミアムがわずかで済んだわけですけれども、今は残念ながらほとんどが遺伝子組みかえのトウモロコシあるいは大豆になっている中で、分別してそれを日本に持って帰って使うということは、非常にコスト的にも負担がふえているわけです。
ところが、非常にこれはお互いによかったと思うのは、お米については、日本政府は遺伝子組みかえはしないという方針を貫いてくださっているのですね。そうすると、飼料米の競争力の中に、今、遺伝子組みかえしないために払っているプレミアム、それは相当海外に払います。とても1ブッシェル、今3ドルとか、あるいは4ドル出さないと入らないというものが、お米の競争力に、お米は遺伝子組みかえをしていなかったので、そのまま付加できるわけです。したがって、その分だけは、我々がnon-GMOでやっている、遺伝子組みかえをしないでやっていくという分には、コスト競争力として飼料米が加算できる。これは非常に大きなポイントではないかと思います。
このように共励会をしまして、皆様、元気になりましょうとやっていきます。
いろいろと国や県のご指導もいただきまして、秋川牧園の40年前にスタートした仕組みは、もともとクラスターだったなというふうに思うのですね。それを今度きちっと正式なクラスターという形に整理しまして、山口グリーンネット協議会というクラスターが誕生して、今、運用されています(スライドNO16参照)。
飼料米にも課題があります。我々はコストを落とすために、もみで貯留する。もみで保管をしますと、非常にいいことは、低温倉庫が要りません。先ほどお話があった鈴木さんの養鶏所が先輩なのですが、大変ご苦労されて、鈴木さんは日本で海外と同じような鉄板サイロを建築されたといういわゆるパイオニアです。私も海外は大変行くわけですが、海外では建築確認規制はもちろん要りません。本当に普通で建つような鉄板サイロです。外は全部、亜鉛引きです。いつ建てたかと聞きますと、じいさん、ひいじいさんの代から建っておったというふうな話なので、すごく長持ちします。それについて海外のトウモロコシは、風を送るという方法でヒーティングを防ぐ。1年間、保管するわけです。ですから、アメリカの農家も、ブラジルの農家も、1年間、保管して、市価相場を見て、いつ出すかということを、何らエネルギーを使わないでやっているわけです。
この籾米については、いわゆる送風式よりは循環式がいいということで、先ほどの鈴木養鶏場さんのほうでも、既に先駆的にやっていらっしゃいます。循環ということは、秋にとれますね。そうすると、5月ごろには大体半分は使いますから、半分あるわけです。それを空いたほうに移すだけで、いわゆるヒーティングが防がれる。籾の場合は非常に虫もつきにくいということです。
ぜひひとつ、この飼料用米というものが畜産と連携して、多収穫でコストを落として、一定の国の支援の継続は前提になると思いますが、さらに遺伝子組みかえをお米はしていなかったのだというところで活用して、日本の地域が潤っていくことを期待申し上げているところです。
これで終わりになります。
それで、お手元に別の資料をお配りしておると思いますので、後でまた質疑応答の時間があるかと思いますが、ざっとお話をしておきたいと思います。
一番初めに、秋川牧園とはというのは、ご説明させていただきましたので、省略させていただきます。(資料:「耕畜連携体による飼料米生産で地域循環を実現」)
補足資料:耕畜連携体による飼料米生産で地域循環を実現」 ―(株)秋川牧園の取組-
それから、1ページのところで、飼料米に取り組む経過ですね。このこともお話をさせていただきました。
それから、2ページのところです。non-GMOというのは、もうお聞きになっていらっしゃると思いますが、GMOというのは遺伝子組みかえのことで、non-GMOはそれをしない。今ヨーロッパも日本の消費者も、このことについて非常にご支持をいただける消費者がふえています。飼料米はnon-GMOになんだということを、ひとつ頭の中に置いていただくことは非常に大事かなと思います。
2ページの下のところでございますが、地域循環ということで、我々のつくった鶏ふんを堆肥化して、地域に循環して、飼料米ができて、その飼料米を使っていくということが、お互いに実現できるといいなと。
3ページのところですが、発酵鶏ふんについては先ほどお話をしました。1トン、籾でとろうという多収穫でありますと、初年度は17〜18キロぐらいですが、年々入れていきますと、15キロで十分できるようになります。ほかの肥料はほとんど要らないというところです。
次の4ページのところで、飼料米専用品種は、インディカが入ったものは倒れません。倒伏はないと言っていいです。立毛乾燥は少しまだ厳しいように思いますが。しかも、それは精米をして、籾摺りをしてやるのか、玄米で、籾のままやるのかというのは選択だと思いますが、私ども山口県でやるものについては、最も低コストで各地域で地域循環ができるということで、籾の選択をしているというところです。
品種の問題で、4ページの下のところについて、どんどん品種がよくなってきています。改良されています。あとは、課題は、やっぱり登熟時期を早める。それから、田植えは早いほどいいのですね。インディカは南方のものだから寒いといけないと思いますが、5月の初めでも田植えは可能です。ただ、西日本では麦作が結構ありまして、麦作の後というのは少ししんどいんですね。だから、そういう後作の場合も田植えは少なくとも6月の、できれば20日まで、遅くても25日までにやる。それ以上、遅くなりますと、非常に登熟がおくれますので、収穫量に問題が出てまいります。
5ページの下の畜産クラスターの話は先ほど申し上げました。
また後でご質問等の時間がありましたら、お受けしたいと思います。どうも、ご清聴、ありがとうございました。